セレモニーピアニストの日々

片山健太郎

セレモニーピアニストのこと 献奏曲のこと

【アーティスト別】献奏でご要望の高い曲 (2) 石原裕次郎

投稿日:2019年5月26日

以前の記事、「献奏でご要望の高い曲、70代後半〜80代 (2)」の中で、この世代の故人様のセレモニーにおいて、最も要望の高い歌手を取り上げてなかった旨の記述を致しました。その人こそ、今回取り上げる「石原裕次郎」です。

俳優、歌手の両面に渡って活躍した、日本を代表するスターであると言う理由だけでは、献奏でご要望が高い理由の全てを説明出来る訳ではなく、彼の生き方、生き様に対して共感し、憧れる者が多かったことこそが、その理由ではないでしょうか?

さて、石原裕次郎の膨大なディスコグラフィーから献奏に合う曲を1曲選べとなると、これがなかなか難問です。ヒット曲は数多いですが、美空ひばりと違い、男女の色恋をテーマにした曲が多いため、ご遺族様にとっても1曲に絞り込む事が出来ず、演奏者に選曲を一任してしまおう、と言う事になるようです。

歌ってお送りする献奏(・・・この場合は献唱と言うべきか)ではなく、あくまでも楽器演奏に限るのであれば、歌詞の意味を深堀りする事はありませんので、ここでは楽曲の雰囲気重視で、ご要望の高い曲、かつ献奏に合いそうな5曲をピックアップしてみます。

※文中の敬称は略させて頂きます。

「夜霧よ今夜も有難う」

浜口庫之助の作品で、ムード歌謡の傑作。250万枚以上レコード売り上げがあったそうですが、これが裕次郎最大のヒット曲ではない所が凄いですね。4ビートのジャズテイストもあり、私自身献奏以外のステージなどでも大変良く演奏しています。厳粛なムードにはなりませんが、会場がちょっとくだけた雰囲気になり、セレモニーに違った味わいをもたらします。どんなお式にも合うと言う訳ではありませんが、故人様が裕次郎のファンであれば納得していただける、そんな1曲だと思います。
(1967年/昭和42年/浜口庫之助:詞・曲)

「ブランデーグラス」

セレモニーの雰囲気に、と言う事であれば、こちらの「ブランデーグラス」の方が合うかもしれません。Aメロにちょっぴりフランスのイージーリスニングのテイストを匂わせる部分があり、しゃれた雰囲気もありますが、一方で厳粛な式でも、それほど違和感なく馴染むと思います。もちろん、ご遺族様の希望があって演奏するのですが、意外にも、葬儀会館のスタッフさんからの「ウケ」が良い曲のひとつでもあります。
(1977年/昭和52年/山口洋子:詞/小谷充:曲)

「北の旅人」

裕次郎の遺作となったのが、この「北の旅人」と言う曲。後述する「わが人生に悔いなし」よりも後に発表された事で、事実上最後のシングル曲となりました。歌の録音は「わが人生・・・」と同時期になされたようです。出だしのギターのフレーズが印象深く、最果ての情景を彷彿させる歌詞と共に、セレモニーの雰囲気に合った曲の一つではないでしょうか。
(1987年/昭和62年/山口洋子:詞/弦哲也:曲)

「恋の町札幌」

今回セレクトした楽曲の中では、幾分地味な存在ですが、リクエストで頂戴する事が幾度かありましたので、ここに取り上げました。この曲をリクエストされるのは、故人様の妻、または夫であり、旦那様や奥様とのご旅行だったり、出身や育ち、あるいは赴任先が札幌だった、と言うエピソードと共にこの曲をチョイスなさるのが大きな特徴です。このような良き思い出に、演奏によって花を添える事が出来る事は、私どもにとっても大いなる喜びなのです。
(1972年/昭和47年/浜口庫之助:詞・曲)

「わが人生に悔いなし」

石原裕次郎が、その人生を総括して歌った楽曲であるだけに、本来なら献奏曲のいの一番に紹介すべきなのかもしれません。いかんせん、ご遺族様からリクエストを頂戴する機会が前述の4曲に比べて遥かに少なく、やむを得ず、最後のご紹介となりました。私にははっきりした理由は分かりませんが、生涯豪放な遊び人として名を馳せた裕次郎に、このようなシリアスな歌は似合わないのかもしれません。私自身、セレモニーの場で取り上げる頻度は高くありません。
(1987年/昭和62年/なかにし礼:詞/加藤登紀子:曲)

石原裕次郎はその華やかなで豪快なエピソードと裏腹に、病魔との戦いに明け暮れた生涯でもありました。むしろ、病との戦いで、常に死を意識していたからこそ、"生"に対するあくなき追求を絶やさなかったのかもしれません。この点は、同じく病を押して東京ドームの杮落としに立った美空ひばりと、生き方は違えど、相通ずるものを感じます。二人とも、昭和という時代に生まれ、昭和という時代に生涯を終えました(ひばりは平成を数ヶ月だけ生きましたが)。私は、献奏という仕事を通じて、遥か昭和に活躍した大先輩たちの生き方、生き様に触れる機会を得る事が出来、本当に良かったと思っています。

では最後に、美空ひばりの記事と同じく、裕次郎の楽曲だけでセレモニー演奏を構成するとしたら、と言うテーマで選曲してみます。実際は法的な問題もあって、このような形で演奏できる機会はごくごく限られますが、あくまでもシミュレーションという事でご理解下さい。

<開式前>
・赤いハンカチ
・二人の世界
・夜霧よ今夜も有難う

<ナレーションBGM>
適当な楽曲が見つからないため、定番曲で対応

<閉式後、お別れ献花>
・北の旅人
・ブランデーグラス

<出棺>
・わが人生に悔いなし

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