セレモニーピアニストの日々

片山健太郎

ウイスキー 食と嗜好品

古酒ウヰスキー礼賛 (1) ちょい古ボトル(オールドじゃないやつ)のウイスキーを試してみた

投稿日:2022年10月21日

ウイスキーマニアの方のブログやYouTubeを拝見すると、度々古いお酒の話題が語られます。

私が良く訪問し参考にしているウイスキーブログのひとつに「くりりんのウイスキー置場」と言うサイトがありますが、こちらの中で高評価をつけているウイスキーの多くは20世紀にリリースされたボトルで、現行ボトルで高評価がついているものは少ない傾向です。

最近ウイスキーを飲むようになった私には、未知の世界。自身で購入しているのは現行品、それも2020年以降にリリースされたものだけで、平成時代にリリースされたボトルですらバーでいくつか試したもの以外は全く知りません。

ウイスキーは古いやつが旨いの?

まあ、確かに「1970年代熟成のアードベッグは至高」とか「最近のマッカランは・・・」とか、沼にはまった方々(ウイスキーマニア)は異口同音に古酒の旨さを言っておられるし、メルカリなんかでも、古いマッカランや山崎が高値取引されているようです。

でも、迂闊に手は出せません。通販サイトで出回っているものは値段も高め。オークションサイトで出回っている古酒の中には、出所が不明だったり(盗品の可能性)、少なからず偽物が混じっていたりする。運良く正規品を手に入れたとしても液面低下や風味や香りの劣化まではわからない。真にバクチなんですね古酒って。基本はバーで、信頼のおけるバーテンダーさんに選んでもらったものを頂くのが正しいと思います。

でも、ちょっとだけ古いボトル、例えばボトルリニューアル前の旧ボトルの在庫とかが通販サイトに残っていることは多く、今回はその中から2本選んで頂くことにしました。

1.ハイランドパーク12年(旧ボトル)

現行ハイランドパーク12年は、サブネームに「ヴァイキング・オナー」を冠し、2017年9月に一新されています。ですので、今回購入したボトルは少なくとも2016-17年以前にリリースされたものとなります。

私は現行ボトルを買ったことはなく、「ひとくちウイスキー」と言う量り売りのサイトで30mlを試飲したのが唯一の体験です。だから比較はできません。できませんがあてずっぽうでいい加減な事を語りたいと思います。

香り キャラメル オレンジ レーズン 梨
味  口あたりはスパイシー ヨード 
   中盤からオレンジ りんご 終盤に栗
余韻 樽感 バニラ コショウ はちみつ

私の記憶の中のハイランドパーク12年(現行)は、飲み始めに、はちみつやリンゴの甘さ、フルーティさを感じ、その後徐々にスパイスを感じ、余韻にスモーキーさが残るという塩梅でした。今回飲んだボトルは、序盤から終盤まで常に軽やかなスモーキーフレーバーが口中を支配します。現行品は味覚の分離が比較的はっきりと感じられたのに対し、旧ボトルは甘さ辛さスモーキーさが混然一体となっている印象です。口当たりにガツンと美味しいと感じるのは現行ですが、しみじみ余韻に浸れるのが旧ボトル、と言う感じでしょうか?これは単純に好き嫌いの問題になりますが、味わいのわかりやすさは現行品に分がある、と感じます。割り材として旧ボトルは不向きかもしれません。旧ボトルのハイボールを試しましたが、香り立ちは良いものの、味わいは苦みが先行し、そのあとスパイシーさが続き、余韻にほのかに甘みを感じる、と言う具合で、飲む人を選ぶハイボールになります。てか、わざわざハイボールにする価値がない。

2.タリスカーディスティラーズエディション2003/2014

私が以前仙台のバーでお勧めされ、感激した銘柄。あの時の感激をもう一度、と言うわけではないですが、せっかくなので1本購入してみました。バーで飲んだのは2010/2020(2010年熟成開始、2020年ボトリング)でしたが、私が購入したのは2003/2014バージョン。古いバージョンの方が熟成年数が1年長いというのは面白いですね。この次の年に出たエディションは2005/2015らしいので、11年熟成のラスト年の製品と言う事になります。熟成を1年減らすだけで樽の必要数も、熟成庫のスペースも減らせるし・・・ね。

香り 熟したブドウ、焦がしたキャラメル、金属、薬品
味  口あたりはまろやか キャラメル リンゴのコンポート
   中盤から潮味 ピート
余韻 木の香 仄かにスパイシー

これも既に記憶の朧げな2020とあてずっぽう比較してみますが、シェリー樽由来のぶどうのようなフルーティーさは新しいものの方が鮮烈です。2020はスモーキーさをあまり感じませんでしたが、2014はタリスカー特有の潮っぽいスモーキーさをはっきり感じ取れます。スモーキーフレーバーが穏やかなフルーティーさを包み込むように醸し出しており、色合いで例えれば、2014がちょっと灰色がかった赤紫、2020が鮮やかで濃い紫、と言ったところでしょうか?

ここから独り言(これまでもひとり言・笑)

この2本だけで古いウイスキーについてを語るのはおこがましいですが、知見の低さを隠さず、堂々と無知をさらしていきましょう!

味わいの傾向としては、

・新しいボトルの方が甘さやスパイシーさの刺激が強く、古いボトルの方が穏やかである。
・初見(?)で「旨い!」と思えるのは新しいボトル、余韻でしみじみ「ええなあ」と思えるのは古いボトル。
・ハイボールなら断然新ボトル。

乱暴に言ってしまうと、こんな傾向があるように思えます。

ウイスキーは樽の中でのみ熟成が進むと考えられがちですが、実はガラス瓶の中でも年数を経て「熟成」に似た変化はあるらしいので、そう言ったこともオールドボトルの特徴につながるのかもしれません。ウイスキーマニアの中には「昔は原酒が豊富にあったのでブレンドも自由自在、でも近年は原酒が枯渇し、多少コンディションの悪い樽であっても捨てずに混ぜている、だから旨くない」と言う趣旨のことをおっしゃる方もいます。恐らくそうなのでしょう。でも、それ以上に私は、昔と現代ではウイスキーの楽しみ方が変わっている事が原因の大きな部分を占めているのではないか、と察するのです。

日本では古くからウイスキーは割って楽しむもの、と言う感覚が定着しております。これはサントリーの戦略が功を奏している。昭和時代は「サントリーオールド」で水割りを勧め、平成時代は「サントリー角」でハイボールを勧めた。本場英国ではストレート需要が圧倒的ではあったが、近年はハイボール需要も増している。でもそれ以上に、中国をはじめとする新興国での需要の伸びが大きく、そう言った国ではカクテルなどでの使用の割合が高い。なんやかんや言っても、オーセンティックバーでちびりちびりやるお酒より、居酒屋やパブ、レストラン、一般の飲食店でワイワイやる系のウイスキー需要の方が圧倒的に高いのだから、当然ブレンドも熟成のさせ方もトレンドはそちら側、「巨大なマーケット」の方に寄せるのは当然なことと思います。悪く言えば味わいが分かりやすく、かつ浅くなる。少数派であるウイスキーマニアが喜ぶような味わいに寄せる事は、経営的に考えてしないでしょう。

ウイスキーマニアが喜ぶようなボトルと言えば、限定発売のボトルだったり、近年乱立するクラフト蒸溜所のボトルが、今後はその需要を担っていくものと思います。要するにマニアなんだから、オフィシャルボトルをぼんやり購入したりせず、情報のアンテナを張り、「限定モノ」を高値で争奪せよ。そういう時代なんですよ。厳しい時代ですが、ある意味ブームの副産物ですから、これはもう仕方ないのかもしれません。

そうした原因は・・・私のようなにわかウイスキーマニアのせいだ!私こそ「戦犯」の一人だろうな・・・。

付け加えると、現代のブレンド技術は20世紀に比べても格段に向上していると思います。コンピューターによる解析技術も進んでいるし、何よりブレンダーさんの技量だって世界レベルで向上しているはずです。枯渇して限られた原酒の中で、いかに良い味わいを生み出すかと言う難題に挑戦している訳だし、日本や台湾をはじめとしたウイスキー後発国の著しい成長が、本場スコットランドのメーカーを震撼させ、ブランドネームと良質な原酒に胡坐をかいたような殿様商売が通用しなくなり、彼らも本気を出してきているわけですから。

それはそうと、真のオールドボトル、私も試してみようかな?沼にはまりそうだからやめておくか・・・。

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